文廟

ハノイの文廟（Temple of Literature）は1070年に設立し、李朝の皇帝である李聖宗が下った命令に従い、当時の都だった昇龍（今のハノイ）で設立したものです。中に中国の歴史人物と言われる周公と孔子、顔子・子思、曽子・孟子と呼ばれる四配及び72賢人を祭り、皇族の子供たちに教育を受けさせた場所でした。西暦1076年に、李仁宗が文廟の傍に国子監を設立しました。これはベトナム歴史における初めての正式の国語の学校でした。西暦1259年に、陳朝（ベトナム語：Nhà Trần）の第二代の皇帝の陳聖宗（Thánh Tông）は国子監を国学院と改め、皇族の子供を教育し、全国の優秀人材を輩出させる教育機構となりました。黎朝（Nhà Lê）に入ると、「太学堂」と改名し、ベトナムの最高レベルの学府に変身しました。

敷地面積26000平方メートルに及ぶ文廟は建物が皆、南側に開き、中国の曲阜の孔子廟の建築様式に倣い、創建したものだと言われます。文廟の庭は前後五つの庭に仕切られていて、それぞれ「水、木、火、金、土」と言われる中国の文化の五行と「仁、義、礼、智、信」と言われる五徳を代表しています。玄関の上に「文廟門」という三つの漢字が大きく飾り、落ち着いています。この門に入ると裏側に漢字で出来た対聯が両側に張ってあります。中に一面の緑色の芝生が広がっています。その間に曲がって敷いた煉瓦の小道が観光客を第二の門と言われる大中門に導いてくれます。目を開いて見れば芝生の向こうに奎文閣が厳かに立っています。奎文閣は精緻な構造だけではなく、独創性にも富んでいます。文廟の真ん中にあることから、あたかも一つの奎（魁）星がゆっくり昇りながら、輝かしい光りを放って、文壇を照らしているように感じされてくれます。

奎文閣と向き合うのは大成門であり、その間に青い空と白い雲が映る池が広がっています。これが有名な天光井です。天光井の両側に82個の進士を表彰するための石碑が整然として並んでいます。石碑が全て巧みに彫刻され、生き生きとした亀の上に載せてあります。見れば中国の西安碑林のような豪華さが伺えます。一個目の石碑は500年余り亀に担がれてきたと言われ、その後、進士に受験するたびに、一個ずつの石碑を立てることになりました。

西暦1484年、文学重視で有名になった黎朝（Nhà Lê）の聖宗（Lê Thánh Tông）が文廟や国子監で石碑を立てるように命じました。黎王朝の聖宗大宝三年（西暦1142年）から進士に受かった名簿を記録しました。そのためにベトナムの民間で子供の勉強を励ますためにいつも「金榜に石碑、千秋に永存」（名前を石碑に刻み、末永く保存する）という座右銘を用いていました。

聖宗大宝三年から西暦1779年の最後の科挙制度にかけて黎王朝の制度に基づき、110回の科挙試験を行うべきだったですが、戦乱のために、今、ハノイの文廟に石碑が82個しか保存されていません。どの石碑にも科挙試験の時間や碑文の作者、彫刻者及び進士の名前などが刻んであります。どの石碑でも重要な歴史的価値ばかりではなく、書道の価値や龍や鳳凰、花、草、人物などの彫刻としての価値も大成しています。後世の人々がこれらの石碑に驚嘆して止まないです。

文廟の本堂とされる大成殿は孔子を祭るお堂であり、真ん中に孔子と72人の弟子が祭られています。その前にお香を立てる机が据えてあります。上に「万世師表」という金色の額が掛かっていて、字体が中国山東省の曲阜の孔子廟の額とまったく同じです。側の一角に古典音楽を演奏する部屋があります。その向こう側に蔵書室があり、中に中越語版の「論語」、「孟子」、「礼記」、「春秋」などの古典文学や儒教を研究する雑誌が陳列しています。その中に中国から直接調達された書籍も珍重されています。ただしベトナムの文廟は中国の文廟と一つ違うのは大成殿の後ろにもう一つのお堂があることです。中にベトナムの儒学巨匠とされた朱文安（Chu Văn An）を祭っていて、彼がベトナムの儒学の発展に大きな役割を果たしたとして、中国の朱子と同じステータスに置かれています。ちなみにハノイでは二つの彼に名前に因んだ中学があります。

900年間にわたる変遷により国子監がもうなくなり、命名した町の名前だけが残っています。しかし新たにされた文廟は観光客に公開され、ハノイの重要な観光ポイントとなっています。毎年のお正月になるとハノイの文化当局は文廟で盛大に孔子を祭祀する式典や書道展、将棋、闘鶏などの伝統的文化イベントを開催することになります。多くの観光客がこれに魅かれて訪れてきます。